紀元前600年頃の周の時代。周の西方国境である函谷関で関所の役人を勤める尹喜(いんき)は、ある日青い牛にまたがってやって来る一人の老人と出会う。その老人にただならぬ徳の高さを感じ取った尹喜は思わず老人の前に跪き懇願した。
「おそらくあなた様は隠遁されるのであろうとお見受けします。その前にどうか私のために道について何か書き残していただけないでしょうか」
尹喜のあまりの熱心さに、その老人はしばらく関所にとどまり、道と徳の意味を述べた上下二篇五千余字からなる書物を著し、立ち去ったという。老人のその後の消息はようとして知れない。
この書物こそ、道教の開創の書として後世に伝わる『老子道徳経』(『老子』)であり、青牛に乗った老人とは老子その人であった。
『老子道徳経』は五千余字からなる短い書物で、上篇の「道経」と下篇の「徳経」の二篇により出来ている。ちなみに「道経」「徳経」とはそれぞれの篇の初めの字をとってそう呼ばれているにすぎず、元々上下に分けて説かれたものではないとされる。
第三十三章
知人者智 :人間を知る者は知恵者である
自知者明 :自分を知る者は聡明、すなわち物事の分別がある。
勝人者力 :人に勝つ者は力が強いだけだが
自勝者強 :自分に打ち勝つ者は心(意志)が強い者である。
知足者富 :「足るを知る」価値を知る者は豊かであり
強行者志有 :「志を持って努力する」価値を知る者は強い。
不失其所者久:それぞれの本来の目的を失わない者は長くとどまる。
死而不亡者寿:死して亡ばざる(滅ばざる)者は命ながい。
